通院の記録


メガバクテリア症 5
   
− 迷い −
もうイヤなんです。
お薬を飲むのは。
 

気分のよいときにはラブソングのサービスがあります



2007年1月6日(土) 4回目の診察


前回の注射から2週間置いた上に、帰省による環境変化のストレスもあったので、メガバクテリアが増えてしまっているのではないかとドキドキだ。

この日の体重は26g。何故かチェリーのダイエットに付き合って減少気味だ。原因がはっきりしているからいいのだが、やはりこの病気の時には心臓に悪い。痩せすぎではないし、血色も良いので、このくらいで維持しても大丈夫だという。



先生は随分長く顕微鏡をのぞいている。しばしの沈黙の後、ようやく、先生が口を開いた。

「前回は全視野にメガバクテリアがいましたが、今回はまた“メガバクテリアを疑う”というレベルに戻りました。もう、今日は注射をしなくてもよさそうですね。ただ、全視野を見てから決めましょう。」

やった!内心小躍りして喜んだ。

しかし、その一方で、そんなに早くやめてしまえるものなのか?それとも、注射にはリスクがあって、なるべく使わない方がよいという事なのか?という不安がよぎる。やはり、注射は身体に負担になるのかと尋ねた。

「注射の薬は肝臓に多少負担がかかってしまうので、打たないですむのなら飲み薬だけで治療した方がよいです。ただ、念のために注射しておくというのもよい選択肢です。負担になるといっても、今の倍量打ったとしても、それで文鳥がどうこうなることはありません。」ということだ。

そして、顕微鏡をのぞきながら言った。

「あー、1ついました。やっぱり、お注射させてください。」



先生は、こちらに向き直って、

「最初に説明したときには、メガバクテリアは軽視してはいけません、治療した方がいいですと言いましたが、調べてみましたら、過去に1年間治療を続けたけれども治らず、治療を打ち切って共存の道を選んだ文鳥さんの例がありました。自分の患者ではないので、完全に追跡はできなかったのですが、その子は胃障害ではなく、別の要因で亡くなったようです。ヤッピーちゃんは、直接投与でお薬もきちんと飲ませて、頻繁に通院して、ここまでやってもらって・・・」と言うので、

「ヤッピーは本当に大切な子なので、できることは全部してあげたい。将来的に害があるかもしれないという可能性が少しでもあるのなら、治療してください。」と改めてお願いした。

「もしかしたら、全く害がないのかもしれません。けれど、今は徹底的にたたいて治療させてください。それでもダメなら、また考えましょう。」
と先生は言ってくださった。


そして、先生は舌打ちしながら悔しそうに
「それにしても、こんなにしつこいと腹が立つなあ。」とつぶやいた。

「ハァ〜、そうなんですか。」と間の抜けた相槌を打ちつつ、こんなことではいけないと気を取り直して、

「セキセイインコだとすぐに落ちるものですか?」と聞いてみた。

「殆どはすぐに落ちますが、10羽に1羽くらいは長期化するものがあります。」

「それは個体差、その鳥の体質によるものですか?」

「免疫力の差ということもありますが、株が違います。それは、薬剤耐性菌だということです。」

(だんだん、イヤな展開になってくるような・・・)



「ヤッピーちゃん、まだウサギさんのところへ行って牧草、集めてます? ワラ巣は入れてませんか?」と聞かれた。

「いや〜、巣は入れてませんけど、牧草は盗んでます。」と答える。

「フンの中に、そこここに、それらしき繊維があります。」と笑って言われた。
(文鳥の牧草集めに関しては、無策なのである・・・)



「ヤッピーさん、ごめん。またお注射だよ」と、ヤッピーをキャリーから取り出して先生に渡した。

「ヤッピーちゃん、おとなしくてお利口ですねー。」とほめてくださる。

「でも、噛むんですよね〜」と答えて、ヤッピーに「噛んじゃダメよ」と言う。

ヤッピーは先生が好きなようで、本気では噛まない。ヤッピーに好かれる人は非常に稀だ。この先生でよかったと思う。


「初めの頃はお利口に薬を飲んでくれたのだけど、さすがにイヤになってきたようで、最近はすぐにペッペッとやってしまう」と雑談の中で話したら、

「今度は、甘いお薬に変えてみましょう。」と臨機応変に対応してくださり、嬉しい。
甘い方の薬は、粘性が高い(混ぜにくい)のと日持ちしないのが欠点だそうだ。



チェリーの方はこの日でダイエット終了となったので、もう強肝剤は出ないが、予防のために抗真菌剤は続けてもらうことにした。





後ろにはメガバクテリア入りのフン
略して「メガウンコ」


ヤッピーが、お薬の甘さにだまされてくれたのは、ほんの1、2日の間だけだった。

ヤッピーは、滅多なことではわがままは言わない子だ。嫌なことでも、それが飼い主の望みであると分かれば、じっと忍んでくれる。

そのヤッピーがこんなにも嫌がっている。ひょっとして、苦いとか不味いとかそんなことではないのではないか?
薬のためにどこか変調を来たしているのではないのか?

この小さな身体に、飲み薬を1日2回、2滴ずつ。2週間ごとの皮下注射。薬漬けといってもいいくらいの量ではないのか。

害があるかどうかも分からない病気のために、健康体の文鳥をそんな状況に追いやっていいのか?
かえって、身体を壊し、寿命を縮めることにならないか?

飼い主の自己満足のために、ヤッピーにこんなにも苦労を強いてよいものか?
迷いは深まるばかりだった。





2007年1月20日(土) 5回目の診察


この日、初めてヤッピーだけの通院となった。長らく健康優良児だったヤッピーは、他の子が病院に行くときも大抵はお留守番役だった。臆病でちょっと神経質な子だ。1羽で大丈夫か? 飼い主の心配をよそに、病院に着いたときもヤッピーはすました顔をしている。

ヤッピーを見るなり、「あれっ」と先生が声を上げる。時ならぬ換羽で羽毛が薄くなり、普段は白い羽毛の下に隠れている翼に数本残る褐色の羽がむき出しになっていたのだ。

「時期じゃないはずなのに、2羽とも抜け始めちゃって・・・。チェリーが抜け始めたと思ったら、ヤッピーも抜けてきちゃいました。」と言うと、

「一緒にいると同調してしまって、1羽抜けると他のもみんな抜け始めることがありますよ。」とのことだ。人間の生理なんかも“うつる”とか、だんだん同調してくるという話もあるが、似たようなものか?


この日は看護師さんがフンの標本を作ってくれた。その間に、いきなり注射をされた。
ヤッピーは全くの無抵抗だ。

「今日は噛みませんねぇ」と喜ばれる。



懸案の副作用について、本当に心配はないのか尋ねた。先生は、しつこいと思われたようだが、心配なものは心配なのだ。

「この抗真菌剤は注射に用いる場合には肝毒性・腎毒性がありますが、経口投与では殆ど吸収されずに、消化管内の菌を殺すだけの作用しかありません。胃に潰瘍があると、血管から直接吸収されてしまうことがありますが、ヤッピーちゃんは、まだ消化管障害はないという判断のもとにやっているので心配はありません。」ということだ。


「初めの頃よりは明らかに減っていますが・・・、すみません、もう1回、見させてください。」

と、先生は今度は自分でフンをとり、スライドを作り直した。そして、

「やはり、フンの量を多くして見ると、それなりにいます。」という。


「今後、どのように治療していくか考えなくてはいけません。正直言って、経過はよくありません。治療を始めてもう1箇月半になりますが、現時点で菌がゼロにならないということは、この先もずっとこのままである可能性が高いです。普通なら、もうとっくに落ちているはずなんです。」

うすうす感じてはいたことだが、改めてはっきり言われると、もう泣きたい気分だ。
(はっきり言ってもらわなくては困るのではあるが)



投薬を嫌がることについて相談した。

「信頼関係が崩れてしまうほどに薬を嫌がるようなら、飲水投与に変えるなど考えなくてはなりませんが・・・」と先生はおっしゃる。

しかし、ヤッピー自身は薬を飲まなくてはならないことを理解していて、嫌々ながらも飲んでいる。そんな、こんなをとりとめもなく説明した。
このとき、よほど私の態度が煮え切らなかったのであろう。

「今、ここで治療をやめて、もし将来、ヤッピーちゃんに胃障害が出てしまったら・・・そのとき、ちゅんちきさんが、それをどうとらえるのかっていう・・・」

先生の声が一瞬、大きくなった。


分かってる、そんな事、言われなくたって分かっている。
今はまだ治療を諦めるべき時ではないし、私自身、現時点での治療打ち切りを望んでいる訳ではない。
“治療してください”とお願いしたのに、今になって、ぐちゃぐちゃ言うのは反則であろう。

でも、分かっていても、つらいのだ。この手でヤッピーの命を削り取っていくような心の痛みを毎日、投薬のたび、感じるのだ。
もう、耳をふさいでしまいたかった。

「ここまで治療して、中途半端にやめてしまうのはよくないと分かっています。」
先生の言葉に直接は答えなかった。
投薬は今までどおり続けることになった。


それにしても、今時の獣医さんはそんな事まで心配してくださるのかと、びっくりした。獣医さんは、患者である動物を治す事だけを心配すればよいのではないのか?

最悪の事態を迎えたときの飼い主の受けとめ方まで心配してもらえるなんて、ありがたい事ではある(後で苦情を言われないためには、必要な配慮かもしれないが・・・)。



治療の成果が見られないことで、私も先生も、そして何よりヤッピー本人が苛立っている。
つらい時期だ。


ヤッピーは、私にとって奇跡の鳥だ。
「ヤッピー、もう一度、ミラクルを!」と心から願う。





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